大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 昭和57年(行ウ)7号 判決

原告 有限会社ニホン清掃工業

(第七号事件)被告 芸西村長

(第九号事件)被告 芸西村

主文

原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 被告が原告に対して昭和五七年八月五日付でした、廃棄物の処理及び清掃に関する法律七条による一般廃棄物処理業の不許可処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(乙事件)

1 被告は原告に対し、金九二三万九二六〇円及びこれに対する昭和五九年一二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 請求の趣旨1につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(甲事件)

1 当事者

(一) 原告は肩書地に本店を有し、し尿及び塵芥処理業、産業廃棄物の運搬処理並びに清掃業等を目的とする有限会社である。

(二) 被告芸西村長(以下「被告村長」という。)は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)七条により、芸西村(以下甲事件においても「被告村」という。)内における一般廃棄物処理業の許可を行う許可権者である。

2 本件処分の存在

原告は、昭和五七年三月三一日付で被告村長に対し、法七条による一般廃棄物処理業の許可申請をしたところ、同村長は、同年八月五日付でこれを許可しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

3 本件処分の違法

(一) 本件処分の理由は、次のとおりである。

(1) 原告には、その業務に関し、不正又は不誠実な行為があると認められる。

(2) 被告村のし尿処理方法が簡易化され、村外業者による処理は不用となつた。

(3) 被告村のし尿処理は、村内業者に処理させることが望ましい。

(二) しかしながら、右(1)の事実は存在しないし、同(2)及び(3)の事由を理由として一般廃棄物処理業の許可申請に対する不許可事由とすることはできない。

(三) 従つて、本件処分は処分の前提たる事実認定及び法令の解釈を誤つた違法な処分である。

4 よつて、原告は、本件処分の取消しを求める。

(乙事件)

1 当事者

甲事件請求原因1(一)と同じである。そして、芸西村長(以下乙事件についても「被告村長」という。)は、被告村の長であり、同村の公権力の行使に当る公務員である。

2 被告村の責任

(一) 損害賠償責任

(1) 甲事件請求原因2(本件処分の存在)と同じである。

(2) 訴外国久衛(以下「衛」という。)は、昭和三〇年ころから被告村内で一般廃棄物処理業を営み、昭和三六年ころには同村の指定業者となり、昭和四二年以降は、清掃法(昭和二九年法律第七二号。以下「旧法」という。)一五条に基づく汚物取扱業の許可を受けていた。右許可以前、同村内で一般廃棄物を処理していたのは、衛と安芸衛生(当時)の二業者であつたが、処理量は、衛の方が多かつた。右許可後は衛が被告村内で右処理業をいわば独占的に継続してきたが、昭和五〇年二月一日衛を代表者として原告が設立され、その後、昭和五四年一月二二日には、昭和三〇年以降衛とともに一般廃棄物処理業に従事していた訴外国久雪美が原告の代表者に就任し、現在に至つている。

このように、原告は、衛の個人営業時代も含め(以下このような場合には「原告ら」ともいう。)、昭和三〇年以降被告村内で一般廃棄物処理業をいわば独占的に営み、その間、その地位にふさわしい物的、人的体制を整備してきた。

(3) 従つて、法所定の一般廃棄物処理業の許可権者である被告村長は、同許可申請のあつた場合には、村内におけるし尿処理の実態、申請業者の実績、経営能力及び技術水準並びに既存の利益に対する配慮等を十分検討したうえでその許否を決すべきであつた。

(4) ところが、本件において被告村長は、これらの検討を怠つて甲事件請求原因3(一)の不当な理由を列挙して違法な本件処分をしたのであるから、同処分をするにつき過失があつた。

(5) 従つて、被告村は、国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条一項に基づき、原告に対し、後記損害を賠償する責任がある。

(二) 損失補償責任

(1) 甲事件請求原因2(本件処分の存在)と同じである。

(2) 仮に、本件処分をするにつき、被告村長に過失が認められないとしても、本件処分は、行政計画の変更(進展)及び公益上の要請を根拠として、原告の既存の利益を剥奪するものである。

従つて、本件処分をするにつき、被告村長に過失が認められなかつたとしても、被告村は、憲法二九条三項に基づき、原告に対し、後記損失を補償する責任がある。

3 損害又は損失

(一) 原告が本件処分によつて受けた損害又は損失は、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和三七年六月一九日閣議決定)三一条一項四号、建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準(昭和三八年建設省訓令第五号)四三条所定の営業廃止補償の転業に通常必要とする期間の上限である二年間の従前の収益相当額を下回るものではない。

(二)(1) 昭和五六年一〇月から昭和五七年三月までの原告の被告村におけるし尿収集による売上高は、別表(一)〈1〉欄記載のとおりであり、その合計額は二八九万七九九〇円である。

(2) 右売上に対する経費は、別表(一)〈2〉欄記載とおりであり、その合計額は二万九九二五円である。

(3)(イ) 原告が右期間中被告村におけるし尿処理に従事させた従業員は、別表(二)〈1〉欄記載のとおりであり、その日当額は同〈2〉欄記載のとおりである。

(ロ) 右期間中の右各従業員の稼働日数は同〈3〉欄記載のとおりであるから、各月に原告が支出した人件費は、別表(一)〈3〉欄記載のとおりであり、その合計は一一一万六五〇〇円である。

(ハ) 右各従業員が被告村でのし尿処理に従事したのは、一日勤務のうちその五〇パーセントに満たないものであるから、右期間の人件費は、右(ロ)の一一一万六五〇〇円の五〇パーセントである五五万八二五〇円を超えない。

(4) 従つて、原告の前記六か月間の収益は、前記(1)の売上高合計額から同(2)の経費の合計額と同(3)(ハ)の人件費合計額とを控除した二三〇万九八一五円である。

(三) よつて、原告の二年間の収益は、右(二)(4)の収益に四を乗じた九二三万九二六〇円であり、これが原告の損害又は損失額である。

4 以上のとおり、原告は、主位的には国賠法一条一項に基づき、予備的には憲法二九条三項に基づき、被告村に対し金九二三万九二六〇円及びこれに対する不法行為の後である又は具体的な損失補償請求をした日の翌日である昭和五九年一二月二五日以降支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(甲事件)

1 請求原因1及び2の各事実は認める。

2 請求原因3(一)の事実は認める。同(二)のうち、同3(一)(1)の事実が存在しないとの点は否認し、その余の主張は争う。同(三)の主張は争う。

(乙事件)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2について

(一) 同(一)(1)の事実は認める。同(2)のうち、原告らが昭和四二年以降被告村長から汚物取扱業又は一般廃棄物処理業の許可を受けていたこと並びに原告が昭和五〇年二月一日に設立されたことは認め、その余の事実は否認する。同(3)の主張は争う。同(4)のうち、被告村長がそのような理由に基づいて本件処分をしたことは認め、その余の事実は否認する。同(5)の主張は争う。

(二) 同(二)(1)の事実は認める。同(2)の主張は争う。

3 請求原因3の主張は争う。

三  被告らの主張

(甲事件)

1 本件処分に至る経緯

(一) 被告村は、農業を主体とする村であり、昭和四二年ころまでは、村内外の農家が一般家庭のし尿を肥料として使用していた。当時旧法はすでに施行されていたが、汚物取扱業者に同法一五条所定の許可を与えてまで処理する必要もなかつたため、右許可は行われず、し尿は、村内外の処理希望者により自由に処理されていた。

その後、被告村長は、昭和四二年以降、処理能力を有し、処理を希望する業者に一般廃棄物処理業(旧法時には、汚物取扱業。)の許可を与えることとし、原告らのほか、数業者に一年ごとに許可を与えてきた。

昭和五一年度の原告の許可申請に際し、原告は、汲み取つたし尿を山林、牧草地等への投棄、投入によつて処理する旨記載したにもかかわらず、同年一一月一〇日ころ、被告村で汲み取つたし尿を同村の加入していない香南八か町村の処理場に不法投入して処理していることが判明した。そこで、被告村長は、原告に対して右時期から約一年間被告村でのし尿処理を事実上禁止したが、この間の同村内の一般廃棄物の処理は、他の業者により、円滑に行われていた。

(二) 昭和五二年に至り、被告村は、同村和食に容量一八〇キロリツトルのし尿貯留タンク(以下「本件タンク」という。)を設置した。

同村の許可業者は、右時期以降、同村内で汲み取つたし尿すべてを本件タンクに投入することとし、投入の際し尿投入量を申告させ、タンク使用料として一・八キロリツトル当り一五〇〇円を同村が徴収することになつた。なお、タンク内のし尿は、当初高知県安芸郡田野町の中芸行政組合(昭和五五年三月三一日までの名称は中芸衛生組合)の衛生センター(以下「衛生センター」という。)に処理を依頼し、本件タンクから衛生センターまでは訴外浜内敏夫、同有沢博通、同太田信夫等の業者(中芸業者及び安芸業者)に搬出させ、同センターが処分をしていた。被告村は、右搬出業者に対し、搬出料として一・八キロリツトル当り、中芸業者には、昭和五二、三年度は六〇〇〇円、昭和五四年度は七〇〇〇円、昭和五五、六年度は九八〇〇円、安芸業者には、昭和五三、四年度は五五〇〇円、昭和五五、六年度は六七五〇円を、右行政組合には処理料として一・八キロリツトル当り昭和五二、三年度は二五〇〇円、昭和五四年度は三五〇〇円、昭和五五年度は五〇〇〇円、昭和五六年度は七〇〇〇円をそれぞれ支払つてきた。

(三) 昭和五七年度に至り、被告村は、同村馬の上にし尿処理施設として芸西村堆肥センター(以下「堆肥センター」という。)を設置し、それ以後同村内で汲み取つたし尿は、直接右センターに搬入して処理することとなつたため、処理方法が簡易化し、同村内のし尿の処理は、同村が直営でこれを行うこととなり、一般廃棄物処理業者は不用となつた。

(四) 原告は、被告村長に対し、昭和五七年四月九日に同年三月三一日付の一般廃棄物処理業の許可申請書を提出したが、被告村長は、右申請に対し、同年八月五日に本件処分をした。

2 本件処分の適法性

(一) 一般廃棄物の処理責任と許可制

法は、廃棄物の処理に関する市町村の責務として、市町村がつねに清掃思想の普及を図るとともに、廃棄物の処理に関する事業の実施に当つては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならないものとし(法四条一項)、また、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理について一定の計画を定め、右計画に従つて、一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分しなければならない(法六条一、二項)ものとされている。そして、右区域内においては、その区域を管轄する市町村長の許可を受けなければ一般廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行うことはできず(法七条一項本文)、右許可要件として、当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること(同条二項一号)、その申請の内容が市町村の定めた前記計画に適合するものであること(同法二号)、その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること(同項三号)、申請者に欠格事由のないこと(同項四号)の各要件が定められている。

法がこのように、一般廃棄物処理業につき許可制をとつているのは、一般廃棄物を適正に処理して生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るためには、一般廃棄物の処理が当該区域内において全体として整合性を有して行われる必要があることによる。それゆえ、法は一般廃棄物の処理を市町村自らが行うべきものとして、もつぱらその責務とし、私人が右処理を業として行うことを一般的に禁止する一方、市町村自身が当該全区域内にわたり、直接又は委託によつて一般廃棄物を処理することが困難なときには、これを一般廃棄物処理業者にその責任において処理させ、その場合には、市町村による処理事業との整合性を図り、衛生行政上の見地から右業者に所定の規制、監督を加える必要があることに照らし、一般廃棄物の処理を業として行うことを市町村長の許可にかからせたのである。なお、旧法にもこれとほぼ同様の規定が置かれていた。

(二) 本件処分の理由について

(1) 原告の不正行為

(イ) 前記のとおり、被告村では、許可業者が一般家庭から汲み取つたし尿を本件タンクに投入させ、右投入量を申告させて一・八キロリツトル当り一五〇〇円のタンク使用料を徴収していた。

(ロ) ところが、原告は、昭和五六年度に至り、被告村長の再三の注意にもかかわらず、し尿投入量を正しく申告せず不正にタンク使用料の徴収を免がれ、一般廃棄物の処理責任者である被告村に多大の損害を与えたばかりか、同村担当者が右不正行為を注意するとともに、本件タンクを使用後は直ちに同タンクの鍵を同村担当者に返戻するよう再三注意をしたにもかかわらず、これらの注意も無視して鍵を返さず、不正申告を続けた。

(ハ) 原告の右行為は、昭和五八年法律第四三号による改正前の法七条二項四号ハに該当する。

(2) 被告村による直営化について

被告村は、村外でし尿を処理すれば多大の費用を要するので、堆肥センターを設置し、これによつて村内でし尿を処理することが可能となつた。このように、同村がし尿の処理を自ら行うようになつた結果、許可業者に許可を与えて処理させる必要はなくなつた。

(3) 村内業者の育成

現在芸西村では、原告のみならず、他の業者にも一般廃棄物処理業の許可は与えていないが、仮に、業者に右許可を与えて一般廃棄物を処理させる必要が生じたとしても、前記(1)のような不正行為をする原告よりは、村内の業者に許可を与える方が相当である。

(三) 本件処分は、右(二)に掲げた諸事情を総合考慮した結果行われたものであるから、適法である。

3 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、理由がない。

(乙事件)

1 甲事件被告の主張1及び2と同じである。

2 このように本件処分が適法である以上、被告村において原告に対し、損害賠償又は損失補償をすべき責任はない。

3 よつて、原告の本訴請求は、理由がない。

四  被告らの主張に対する認否

(甲事件)

1 被告(被告村長)の主張1について

(一) 同(一)のうち、原告らが昭和四二年以降被告村長から汚物取扱業又は一般廃棄物処理業の許可を受けてきたこと、原告が被告村から汲み取つたし尿を香南八か町村の処理場に投入したことがあつたことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同(二)のうち、昭和五二年に被告村が本件タンクを設置したことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(四) 同(四)の事実は認める。

2 被告の主張2について

(一) 同(一)の主張は争う。

(二) 同(二)について

(1) 同(1)(イ)及び(ロ)の各事実は否認する。同(ハ)の主張は争う。

(2) 同(2)及び(3)の各事実は否認する。

(三) 同(三)の主張は争う。

3 被告の主張3の主張は争う。

(乙事件)

1 被告(被告村)の主張1に対する認否は、甲事件被告の主張に対する認否1及び2と同じである。

2 被告の主張2及び3の各主張は争う。

五  原告の反論(甲事件)

1  不正申告について

(一) 仮に、本件タンクへの投入量につき、被告らの主張するように過少申告があつたとしても、原告は、元来不正に本件タンクの使用料の支払を免れる意図はなかつたのであるから、被告村から資料を添えて過少申告の事実を指摘されれば、これに応じたはずである。

(二) ところが、同村担当者は、昭和五七年一月ころ、投棄量が少ないのではないかと指摘しただけで、投棄量及び搬出量につき、十分な点検もせず、突然本件処分において、不正申告を処分の理由とした。

2  被告村による直営化について

(一) 乙事件請求原因2(一)(2)と同じである。

(二) 他方、被告村は、原告らに一般廃棄物の処理を行わせたが、本件タンク設置までは何らの施設、設備を有せず、一般廃棄物の収集から処理まで、すべて原告らに依存してきた。これに対して原告らは同村内の廃棄物を適切に処理し、同村の生活環境の保全及び公衆衛生の向上にも多大の寄与をしてきた。そして、同村の担当者も原告らの右功績を認め、堆肥センター完成後は、原告らのこれまでの尽力にも報いることができる旨述べていた。

(三) ところが、被告村長は、同センターが完成すると、村外業者による処理が不用になつたとして、一方的に原告の一般廃棄物処理業の申請を不許可とした。

3  村内業者の存在について

(一) 法七条の許可権者である市町村長は、右申請につき競願者がある場合には、そのいずれかを恣意的に選択できるものではなく、競願者の営業実績、経営能力、技術水準等を比較検討し、法一条所定の目的を達成するための適格性の優劣を判定したうえで、そのいずれに許可を与えるかを決定しなければならない。

(二) しかも、原告は、前記のとおり、被告村内で長期間にわたつて一般廃棄物処理業者として多大の実績を有し、今後とも右実績を確保できるだけの物的、人的体制及び技術水準を有している。

(三) ところが、被告村長は、現実に競願があつたわけでもないのに、単に村内業者優先を主張するだけで、原告の右事情を全く考慮せずに本件処分をした。

4  よつて、前記1ないし3に照らすならば、仮に、被告村長の主張する事由が存在するとしても、本件処分は裁量権を濫用したものであつて違法である。

六  原告の反論に対する被告村長の認否

1  原告の反論1(一)のうち、原告が本件タンクへの投入量につき過少申告をしたことは否認する。同(二)のうち、被告村長が原告において不正申告をしたことを本件処分の理由としたことは認め、その余の事実は否認する。

2  原告の反論2(一)のうち、原告らが昭和四二年以降被告村長から汚物取扱業又は一般廃棄物処理業の許可を受けていたこと並びに原告が昭和五〇年二月一日に設立されたことは認め、その余の事実は否認する。同(二)のうち、原告らが被告村内で一般廃棄物処理業に従事していたことは認め、その余の事実は否認する。同項(三)のうち、被告村長の措置が一方的であつたとの点は否認し、その余の事実は認める。

3  原告の反論3(一)及び(二)の各事実は否認する。同(三)の主張は争う。

4  原告の反論4の主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  甲事件

1  請求原因1(当事者)及び2(本件処分の存在)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  本件処分の適否

そこで、本件処分が適法であるかどうかについて検討する。

(一)  法は、廃棄物を適正に処理し、及び生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするものである(法一条)が、法によれば、市町村は廃棄物の処理に関する責務として、つねに清掃思想の普及を図るとともに、廃棄物の処理に関する事業の実施に当つては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならないものとされ(法四条一項)、また、その区域内における一般廃棄物の処理について、一定の計画を定め、右計画に従つて、一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちにこれを収集、運搬及び処分しなければならない(法六条一、二項)ものとしている。

このように、一般廃棄物の収集、運搬及び処分は、法律によつて地方自治体がその責務として行うべきいわゆる団体委任事務(地方自治法二条九項、同法別表第二、一、一一)である。しかしながら、市町村自身がその全区域にわたり、直接すべての一般廃棄物の収集、運搬及び処分をすることは困難ないし不可能な場合もあるので、法は、市町村がこれを他の者に委託して行い(法六条三項)、又は一般廃棄物処理業者に代行させることとして、その営業の許可をし、所要の監督を加える(法七条)こととしている。そして、右許可要件についても、し尿浄化槽清掃業の許可要件(昭和五八年法律第四三号による改正前の法九条二項)や産業廃棄物処理業の許可要件(法一四条二項)に共通な要件(技術要件及び一定の欠格事由の不存在)のほかに、法七条二項一、二号において、当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること(一号)並びにその申請の内容が法六条一項の規定により定められた計画に適合するものであること(二号)の二つの要件が追加されている。

よつて、こうした法の趣旨に照らすならば、法七条の一般廃棄物処理業の営業の許可については、市町村の責務である廃棄物処理事務の遂行の観点から、市町村長が許可要件の存否を判断するにつき、相当広範な裁量が与えられており、右許可に関する市町村長の裁量は、いわゆる要件裁量であると解すべきである。

(二)  いずれも成立に争いのない甲第五ないし第二〇号証、原本の存在及び成立につきいずれも争いのない乙第五ないし第九号証の各一ないし三、同第一〇号証、同第一一号証の一ないし二四、同第一二号証の一ないし三、同第一三、第一四号証の各一ないし四、同第一五号証の一、二、証人山内諭の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一六号証、同第一七号証の一ないし六、右山内証人、証人原啓及び本田静子(第一回。但し、後記認定に反する部分を除く。)の各証言、原告代表者本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告村は、ハウス園芸を主たる産業とする農村であつたところから、昭和四二年ころまでは、村内の一般家庭から排出されるし尿は、これを肥料として使用する村内外の農家によつて収集されていた。それゆえ、この当時、村内の一般廃棄物の処理については、被告村が特段の計画をたてる必要もなかつた。

その後、昭和四二年ころからは、肥料がし尿から化学肥料に切り換えられていつたこともあつて、肥料として使用されるし尿が次第に減少したが、前述した従前の経緯から村内には一般廃棄物の処理施設もなかつたので、被告村では、し尿の処理を業者に行わせることとし、被告村長は、同年四月一日以降、原告の元代表者であつた衛(同人は、当時公益社の名称でし尿処理業を営んでいた。)ほか数業者に対し、一年ごとに旧法一五条所定の汚物取扱業の許可を与えてきた。そして、昭和四五年に法が制定された後(但し、法が施行されたのは昭和四六年九月二四日である。)は、引き続き衛又は原告(昭和五〇年度以降)に対し、法七条所定の一般廃棄物処理業の許可を与えてきた(被告村長が昭和四二年以降原告らに対し、汚物取扱業又は一般廃棄物処理業の許可を与えてきたことは、当事者間に争いがない。)。

(2) ところで、原告は、昭和五一年度の一般廃棄物処理業の許可申請の際、汲み取つたし尿は、山林、牧草地等への投入、投棄によつて処分する旨記載していたにもかかわらず、同年一一月一〇日ころ、被告村で汲み取つたし尿を同村の加入していない香長し尿処理組合(高知県香美郡土佐山田町、香北町、物部村、野市町、吉川村、赤岡町、香我美町及び夜須町の八か町村による一部事務組合)の処理場へ不法に投棄して処分していることが判明し、同年一二月には、右組合から被告村に対して抗議が行われた。そこで、被告村長は、原告に対し、同年一一月一〇日ころから後述する本件タンクが完成するまで約一年間、被告村内での一般廃棄物の処理を事実上禁止した。

なお、この間被告村では、一般廃棄物の収集及び運搬は、訴外浜内敏夫、同有沢博道、同太田信夫等の業者(中芸業者及び安芸業者)に行わせ、その処分は、高知県安芸郡田野町所在の中芸衛生組合の衛生センターで行つていた(原告が被告村内で収集したし尿を香長し尿処理組合の処理場に投棄したことは、当事者間に争いがない。)。

(3) こうして、被告村でも一般廃棄物処理施設の設置が要請されるようになつたので、昭和五二年に至り、まず貯留施設を設置することとなり、同村は、同年度廃棄物処理施設等整備事業貯留槽造成工事として、同村和食に容量一八〇キロリツトルの本件タンクを建設し、同年一一月一四日に完成させた(本件タンクが昭和五二年に完成したことは、当事者間に争いがない。)。

本件タンクの完成によつて、被告村では、一般廃棄物は次のように処理されることとなつた。すなわち、原告(原告は、本件タンク完成後は再び被告村内における一般廃棄物処理業に従事していた。)は、被告村内で収集したし尿をすべて本件タンクに投入し、その際、し尿投入量を申告し、これに基づき、同村が一・八キロリツトル当り一五〇〇円をタンク使用量として原告から徴収する。そして、本件タンクに貯留されたし尿の処分は、衛生センターに依頼し、本件タンクから衛生センターまでのし尿の運搬は、前記浜内らの業者が行うこととなつた。この際、被告村は、右業者に対し、運搬料として一・八キロリツトル当り、中芸業者には、昭和五二、三年度は六〇〇〇円、昭和五四年度は七〇〇〇円、昭和五五、六年度は九八〇〇円、安芸業者には、昭和五三、四年度は五五〇〇円、昭和五五、六年度は六七五〇円をそれぞれ支払い、また、行政組合に対し、処理料として一・八キロリツトル当り、昭和五二、三年度は二五〇〇円、昭和五四年度は三五〇〇円、昭和五五年度は五〇〇〇円、昭和五六年度は七〇〇〇円をそれぞれ支払つている。これらのし尿処理関係における被告村の歳入歳出状況は、別表(四)記載のとおりであるが、これによつても明らかなように、被告村は、本件タンクの設置後も一般廃棄物の処理につき、多大の支出を余儀なくされていた。

(4) こうして、原告は、本件タンク完成後は、被告村内で収集したし尿を本件タンクに投入し、右投入量に応じて同村に右タンクの使用料を払つていたが、昭和五三年度以降の原告の申告量は、別表(三)記載のとおりであつた。

ところが、昭和五六年度になり、原告の投入申告量はきわめて少なくなり、同年六月及び一一月には、申告投入量が零となつた。そこで、当時民生課長として被告村の一般廃棄物処理に関する事務を担当していた訴外山内諭(以下「山内課長」という。)は、申告投入量が零となつた月の翌月である昭和五六年七月初旬及び同年一二月に原告の従業員に対してそれぞれ注意をした(但し、同年七月初旬は、民生課主事の訴外竹内強を介して注意がされた。)が、注意のあつた当該月だけは、申告投入量が一時増加するものの、その後は再び申告投入量が減少した。とりわけ、昭和五七年一ないし三月の三か月間は、三か月間の申告投入量を合計しても五五・八キロリツトルにしかならず、昭和五四ないし五六年の各一ないし三月において、原告の申告量が最低であつた昭和五五年二月の七二キロリツトルにも及ばなかつた。なお、山内課長は、この間昭和五七年三月二〇日ころ、原告代表者を呼び、原告の申告投入量があまりにも少ないことを指摘し、このままでは昭和五七年度の一般廃棄物処理業の許可は与えられない旨警告している。

ところで、被告村では、本件タンクへのし尿の投入に際しては、業者が投入の都度、役場で保管している同タンクの鍵を受け取つて同タンクにし尿を投入し、投入が終了すれば、再び鍵を役場に返却させ、その際投入量を自主的に申告させ、右申告量に応じて使用料を徴収する仕組をとつていたが、昭和五六年度以降は、原告の従業員が鍵を役場から持ち出したまま、被告村担当者の再三の返還要求にもかかわらず、これを返却せず、本件タンクへのし尿の投入をくり返していた。

結局、原告が昭和五六年度中に本件タンクへの投入を申告したし尿は合計五〇七・六キロリツトルにすぎず、昭和五三ないし五五年度の平均実績の半分以下であつたにもかかわらず、同タンクから搬出されたし尿は、右投入量の三倍を上回る合計一八六四・八キロリツトルにのぼり、し尿は、貯留中の固形化を防止するために水を加えることによつて、一般的に投入時よりも搬出時の方が増量していることを考慮にいれても、申告投入量と実際に搬出されるし尿の量との間には大きな開きがあつた。

(5) 被告村では、本件タンク設置当時から村独自の一般廃棄物処理施設の建設を計画していたが、その当時同村の主たる産業であるハウス園芸について、地力の減退が問題となり、堆肥を投入することが検討されていたこともあつて、最終的には、村内の一般廃棄物処理とハウス園芸のコンボスト(堆肥生産施設)との二つの機能を果たす多目的施設である堆肥センターを建設することとし、昭和五五年一二月から同村馬ノ上地区において、総事業費三億九五〇〇万円で建設に着手した。堆肥センターは、三五〇〇平方メートルの敷地内に鉄骨スレート造り平屋建てのコンボスト発酵棟(一二八三平方メートル)一棟のほか、鉄骨スレート造りの倉庫(六二平方メートル)一棟が建築された施設であり、昭和五七年三月末に完成し、同年四月一日から試運転を開始した。

右堆肥センター完成に伴い、被告村では、村内から同センターまでの一般廃棄物の収集及び運搬をどのようにするか協議したが、原告については右(4)の事情があつたこと等から、し尿の収集及び運搬の事務についても業者に許可を与えずに、被告村でし尿収集車を購入し、村内でし尿収集を希望していた者を乗務員として雇用することによつて、被告村自らが直接行うこととした。

(6) このような経緯から、被告村長は、原告の昭和五七年度の一般廃棄物処理業の許可申請に対し、本件処分をした(被告村長が本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、証人本田静子の証言(第一回)及び原告代表者本人の供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし措置できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない(なお、証人山内諭の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証中には、昭和五六年度のし尿処理関係歳入歳出状況につき、右認定と異なる記載があるが、前掲乙第一六号証及び同第一七号証の六並びに弁論の全趣旨によれば、同第二号証中の右記載は、誤記であることが認められる。)。

(三)  そこで、以上認定の事実を前提に、本件処分の適否を検討することとする。

(1) 不正申告について

前記認定によれば、過少に申告した投入し尿の正確な量は明らかではないものの、少なくとも、原告が昭和五六年度において、本件タンクに投入したし尿の量を正しく申告せず、その結果、本来支払うべき使用料を不正に免れたことは明らかである。そして、原告の右不正行為は、山内課長ら被告村の担当者による再三の注意にもかかわらず、反覆継続して行われたものであつて、同村と業者との信頼関係を基礎とする投入量の自主申告制度を悪用した行為というべく、その情状は重大、悪質といわざるを得ない。更に、前記認定のとおり、被告村では、し尿の処理につき、一・八キロリツトル当り単価でも原告から得られる収入をはるかに上回る費用を支出していたこと及び徴収を免れた投入し尿量(これが一キロリツトルや一〇キロリツトルの単位ではないことは、前記認定事実に照らし、明らかである。)等をも考慮すれば、原告の右不正行為によつて被告村の受けた損害は決して看過できるものではない。

従つて、これらの事情に照らせば、原告につき、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があることは、明らかである。

なお、原告は、仮にし尿の投入について過少申告の事実があつたとしても、原告は、本件タンクの使用料を不正に免れる意図はなく、過少申告のあつた場合に被告村長から資料を添えて指摘を受ければ、是正したはずであつたにもかかわらず、被告村長は、昭和五七年一月ころ一度注意しただけで、いきなり本件処分をしたのであるから、本件処分は被告村長に付与された裁量権の範囲を逸脱した違法な処分である旨主張し、原告代表者本人の供述中には右主張に沿う部分がある。しかしながら、前記認定のとおり、原告は、被告村担当者の再三の注意にもかかわらず、し尿の投入量について正しい申告をせず(原告は、昭和五六年六月及び一一月に至つては、一か月の間全く投入量を申告していない。)、また、本件タンクの鍵を返却しなかつた(この点に関する原告代表者本人の右供述は措信できない)のであるから、原告の右主張は到底採用できない。

更に、原告は、被告村は、業者による本件タンクへのし尿の投入及び同タンクからのし尿の搬出を点検していないなど、本件タンクの管理を十分に行つていなかつたのであるから、被告村の側にも落度があつた旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、原告は、業者を信頼して設けられた自主申告制度を悪用して投入量を不正申告して使用料の徴収を免れ、しかも、その間鍵も返却しないという不正行為をしたものであるから、このような原告が、被告村による本件タンクの管理の適否を云々することは到底許されるものではない。そして、前記認定事実及びし尿の投入はその性質上多数回反覆継続されるという事情を考慮するならば、投入の自主申告制度には合理性があり、これをもつて被告村が本件タンクの管理を怠つているものとは到底解し得ない。よつて、原告の右主張が理由のないことは、明らかである。

従つて、原告には、一般廃棄物処理の業務を行うにつき、昭和五八年法律第四三号による改正前の法七条二項四号ハの事由が存在する。

(2) 被告村による直営化について

前記認定によれば、堆肥センターが完成したことによつて、被告村では当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難でなくなつたことは明らかである。

ところで、原告は、原告らは、昭和三〇年ころから本件処分を受けるまでの間、被告村内で独占的に一般廃棄物の処理を行い、その間には自らし尿の貯留槽を設置するなどして、同村のし尿処理に多大の貢献をしてきたのであるから、こうした原告のこれまでの実績を無視し、堆肥センターが完成したことを理由に原告の営業を許可しない本件処分は、被告村長に付与された裁量権の範囲を逸脱した違法な処分である旨主張する。

なるほど、前記認定及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告らは、昭和三〇年ころから被告村で一般廃棄物処理業に従事していたこと及び原告らは、独自にし尿の貯留場(溜め)を設置したことが認められる。しかしながら、そもそも一般廃棄物処理業の許可を受けた者は、一般廃棄物の処理につき、法六条一項所定の計画との間に適合性を持たせ、また、同条三項の政令で定める基準に従い、一般廃棄物を処理しなければならない(法七条五項)のであるから、そのために自らの責任において処理施設を設け、又は他の何らかの処理方法を確保する必要のあることは当然である(もし、一般廃棄物処理業者が不正に一般廃棄物を処理すれば、法七条二項四号ハに該当し、許可の欠格事由に該当することになる。原告が昭和五一年一一月に行つた前記し尿の不正処理は、まさに右条項(但し、昭和五八年法律第四三号による改正前のもの。)に該当する行為であつた。)から、原告が一般廃棄物の処理について人的、物的設備を準備したからといつて、そのことのゆえに、その後被告村が堆肥センターを設置して自ら一般廃棄物の収集、運搬及び処分をすることが許されなくなるものとは、到底解し得ない。そして、前記のとおり、一般廃棄物処理業の許可については、許可権者である市町村長による広範な要件裁量が認められており、これに基づいて本件をみれば、前記認定の堆肥センター建設に至る経緯に照らし、同センターの完成によつて当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難でなくなつたとする被告村長の判断には何ら裁量権の濫用を認めることができない。

従つて、本件では、堆肥センターの完成によつて法七条二項一号の事由が生じたというべきである。

(3) このように、本件では法七条二項一号及び昭和五八年法律第四三号による改正前の法七条二項四号ハの各事由が認められ、更に本件全証拠によつても、本件処分をなすにつき被告村長に裁量権の濫用が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、右の各事由を理由としてなされた本件処分は適法である。

3  よつて、本件処分が違法であることを理由とする原告の甲事件の請求は、いずれも理由がない。

二  乙事件

1  請求原因1(当事者)及び2(一)(1)(本件処分の存在)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  損害賠償又は損失補償の要否

そこで、本件処分によつて被告村が原告に対し、損害賠償又は損失補償を行う義務を負うかどうかについて検討する。

(一)  損害賠償

原告は、本件では、被告村の公権力の行使に当る公務員であるとともに一般廃棄物処理業の許可権者である被告村長が諸般の事由の検討を怠つた過失によつて違法な本件処分をしたのであるから、被告村は、損害賠償の責を負う旨主張する。そして、被告村長が被告村の公権力の行使に当る公務員であるとともに一般廃棄物処理業の許可権者であること及び本件処分をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

しかしながら、理由一2で述べたように本件処分は適法であるうえ、本件全証拠によつても被告村長が本件処分をなすにつき、過失のあつたことを認めるに足りる証拠はない。

よつて、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(二)  損失補償

原告は、本件処分をするにつき、被告村長に過失がなかつたとしても、この場合には、被告村の側の事情により、原告がこれまで享受していた営業上の利益を剥奪することになるから、被告村は憲法二九条三項に基づき、原告に対し、右既存の利益を損失補償すべきである旨主張する。

しかしながら、原告の主張する既存の利益がそもそも損失補償の対象となりうるものであるかどうかはともかくとして、本件では、甲事件において認定したように、原告がし尿処理について不正申告という不正行為をしたことは明らかであり、しかも、右不正行為の態様も悪質であるから、不正行為を理由に一般廃棄物処理業の許可を与えない本件処分によつて、原告がこれまで享受していた営業上の利益を失うことになつても、それは、自らが招来した結果ともいえるから、不正行為をした原告に対し、営業上の利益を補償する必要があるとは到底考えられない。

よつて、原告の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

3  よつて、その余の点について判断するまでもなく、被告に対して損害賠償又は損失補償を請求する原告の乙事件の請求は、いずれも理由がない。

三  結論

以上のとおり、原告の甲事件及び乙事件の各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一 大谷辰雄 田中敦)

別表(一)~(四)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例